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「NARUTO」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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12 . May

「あなたが好きです。俺と付き合ってもらえませんか」

前線へ赴くよりも恐怖を感じながら、敵地に侵入するときよりも、その言葉を口にすることの方が緊張するなんて、愛だの恋だの、平和な日常に交わされるものとは本当に自分は無縁だったのだなとカカシは思い知る。唯一晒した右目でちらりと正面の人物を見やれば、その人物は驚いたように目を見開き、暫く硬直した後、緊張を逃すためか、強張らせた口元を緩め笑った。

「その冗談、あまり面白くないです。カカシさん」

冗談だと躱されるのは想定済みだった。いくつかシュミレーションをしてきたが、現実にスルーされるとどうしていいのか解らなくなる。…S級の任務の方がまだあっさりと解決できそうだ。ああ、どうしようか?…戦略を練るのは余り得手ではない。目の前の相手も恋愛経験は皆無そうだが、自分よりはマシだろう。性欲解消が第一で玄人の女しか相手にしてこなかったので、どう口説けば、相手が本気だと信じてくれるのか本当に解らない。ありったけの勇気を振り絞り、その言葉を口にするのがやっとで、後の言葉など続かない。口を開こうにも言葉を忘れてしまったかのように、頭の中は真っ白だ。

 困ったな。

カカシは眉を寄せる。

「…本気なんですけど」

いつまでも黙ってるのも、アレな気がして口を開く。この状況、アスマや紅が見たなら、腹を抱えて笑い出すに違いない。里一番の技師、木の葉最強と言われる写輪眼のカカシが一介の中忍のアカデミー教師にメロメロで、手も足も出ないばかりか、口説く言葉にも詰まるなんて、自分でも笑いたくなる。でも、無理矢理に上忍と中忍という縦社会の力関係で、この人の良さそうなひとを無理強いしたくはないと思う。

 自分の部下となったあの九尾の子どもを懐かせ、扱いにくいうちはの子鬼が唯一、子どもらしい顔をする相手…に、僅かに興味を持って、カカシはイルカに近付いた。…運のいいことに火影の意向でイルカはアカデミーを非常勤となり、火影の秘書を務める傍ら任務報告所の受付に立つようになった。そこで顔を合わせ、言葉を交わす機会が出来た。その僅かな機会にぽつりぽつりと二、三言、話すうちに、イルカの誠実で厳しくもやさしい人柄に急速に惹かれて行くのをカカシは止めることが出来なくなっていた。
 部下を口実に飲みに誘い出すこと数回、最初のうちこそカカシが上忍と遠慮もあってか、イルカの言葉遣いは終始堅く、丁寧で礼節を弁えたものだった。それが好ましくも堅苦しいと思ったが、打ち解けてくると言葉遣いは変わらぬもののイルカの緊張はカカシを知ることで少しづつ取れ、カカシには無縁だと思っていた陽だまりのような柔らかい微笑をイルカは見せるようになった。

 その微笑が、自分以外に向けられるのが腹立たしい。九尾の子どもに向けられる無償の愛が羨ましい。九尾の子を案じるその目が俺にも向けられたいいのに。

 つまらない嫉妬が黒く、心を染めるのにカカシは気付く。深入りはしないと弁えたつもりで、足を踏み入れ過ぎた。敵地なら、自分の命は風前の灯だ。そんなことも気づかぬまま、ひとりの男を好きになってしまった。

 この身を案ずる者は、今や何処にもいない。死んでも悲しむ者なく、土に還る身を悲しいと知ってしまった。

 三界に家無しの忍の者が、世迷い事を笑いたい奴は、笑えばいい。
 恋に落ちた瞬間、ひとの子だったことをと思い出した、憐れな愚か者を。

 イルカの傍らに自分は相応しくない。イルカが太陽ならば、自分はその光に焼かれ落ちる黒い影だ。バッサリと斬り捨てられたなら、楽になれるのか。それでもまだ、叶わぬ思いに一層、身を焦がし、奈落の底へと転がり落ちていくのか…。出会う前は考えたこともなかった想いに身を削られる。辛いほどに愛しい。ひとり抱え込んで、消化も出来やしない。言葉にして吐き出して、カカシは楽になりたかった。

「…そうですか」

長い沈黙。漸く、二の句を告げたイルカはそう言って、口を噤む。カカシはその表情を窺った。
「…オレとあなたの接点なんか、ナルトだけで、それも儚い糸のような繋がりだし、憧れていたあなたを遠目に窺うだけでオレは精一杯で、それなのにカカシさんがオレに話しかけたり、笑ってくれたりするから、勘違いしそうになって…。あなたは里の誇りの上忍で、オレは芥のような一介の中忍だし、おまけに男だし、絶対にあなたを好きになっちゃいけないって思ってたんですけど…、」
イルカの声にカカシは恐れ慄く。

 次の句を訊くのが、怖い。
 クナイの先を喉元に突き付けられたときよりも、怖い。

冷たい汗がカカシの背を落ちてゆく。…ここは戦場だったか。迂闊に呼吸も出来ない。カカシはイルカをただ見つめる。イルカはきゅっと唇を結び、顔を上げ、カカシの露出した右目も、見えない左目も逃さぬように真っ直ぐに見つめた。


「あなたを好きになっても、いいですか?」







ああ、今、胸を射抜かれた。





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