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「NARUTO」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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10 . June
 
 よく晴れた日の事だった。
 
 普段は内勤のため、里外に出ることのないイルカは久方ぶりに日帰りで終わる里外の任務を火影から直々に請け負った。火ノ国の大名に手紙を届けるだけの簡単な任務は午前中の内に済み、里に戻る途中の森の中。里に近く、無名のペーペーの中忍を襲ってくる物好きな他国の忍びはいないだろう。それにこの森は自分の元遊び場で、知り尽くしている。ちょっと休もうとイルカは里の大門へと向かう足を止め、森の中を流れる細い川へと出る。そこで手を濯ぎ、ついでに顔を洗って、一息つくと、木陰に入り、持参してきた握り飯だけの簡素な弁当を広げた。握り飯の中の具は右から順に梅干し、おかか、焼き鮭だ。それをぺとりと湿った海苔が包む。形は少々、歪だが食えれば何の問題もない。あーんと油断しきった顔で、イルカは大口を開け一口、齧り、へにゃりと口元を緩ませる。…任務も無事に終わり、報告書を出せば終了だ。その前に腹ごしらえだ。緑はきれいだし、梅の塩味と酸味のきいた握り飯は美味いし、持参した茶の渋みも美味い。イルカは幸せを実感する。もしゃもしゃと一個目の握り飯を食い終え、二個目に手を付ける。そこに、ばさりと何かが降って来た。
 
「?…!?」
 
降ってきたものに驚いて、イルカは口を開けたまま、固まる。陽光にキラキラと煌く銀の髪。その髪の間から、長い赤い組紐が見える。ゆっくりとイルカを振り返ったのは狗の顔。
(…あ、暗部…?!)
黒いノースリーブのアンダーに白い革鎧。腕に付けられたプロテクターに、鋭い鉤爪。白い肩には暗部所属を示す火影への忠誠を誓った炎を意匠した刺青。狗をかたどった面をつけている。…イルカは開けていた口を慌てて閉じる。それをじっと暗部は見やる。イルカはじとりと背中に嫌な汗が伝うのを感じる。出来ることならこの場から今すぐにでも逃走したかったが、蛇に睨まれた蛙、鷹の前の雀で身動き一つとれない。どうして、こんなところに暗部が!今、昼間なのに!…と、どうでもいいような悪いようなことがぐるぐるとイルカの頭の中を駆け巡る。暗部と言えば、姿を見たものは生きて帰れないだとか、顔を見たものは殺されるだとか、なんともきな臭い眉唾ものの噂が公の口には登らぬものの里を横行している。…自分は抜け忍ではないし、いきなり殺されはしないだろうが、怖いものは怖い。…イルカの怯えなど知る由もなく、暗部はイルカへと近づいてくる。イルカは悲鳴を上げたいのを堪え、何をされるんだろうかと怖くて思わず、ぎゅっと目を瞑った瞬間、
 
 ぎゅるるる。
 
と、音がした。
 
「………?」
 
自分が出した音ではない。イルカは恐る恐る目を開く。また、ぎゅるるると音がした。
(…俺じゃないって、ことは…)
イルカは視線を上げる。ここには、今、イルカの感知する限り、ふたりしかいない。自分でなければ、音の主はこの狗面の暗部だろう。
(…お腹、空いてるのかな?)
イルカは恐恐、口を開いた。
「…あ、あの、お腹、空いてるんですか?」
コクンと狗面が縦に振れた。
「…えーと、良かったら握り飯、食べますか?」
イルカの言葉に驚いたように暗部の肩が僅かに揺れるのを見て、イルカの中で恐怖がちょっとだけ薄れた。
「毒は入ってないです。ただの握り飯です。どうぞ?」
手にしていた握り飯を差し出せば、暫しの躊躇の後、黒い鉤爪が伸びてきて、握り飯を掴む。空いた左手で面を僅かにずらすのに、イルカは顔を見てはいけないと慌ててぎゅっと目を瞑った。川のせせらぎと時折聴こえる小鳥の囀りに混じり、咀嚼する音が微かに響く。
(…食べてる…)
何だかそれにホッとする。イルカは目を瞑ったまま、自分の周囲を手探り、竹筒の水筒を掴むと暗部へと差し出した。
「…お茶、飲みますか?」
すっとイルカの手から水筒が抜き取られ、軽くなる。コクコクと喉の鳴る音が聴こえる。
「良かったら、これもどうぞ」
イルカの言葉に暗部の鈎爪が伸びて、最後の握り飯一個を拐っていく。
 
「…ゴチソウ、サマ…」
 
カタコトな微かなくぐもった声にイルカは思わず、目を開ける。そこに暗部の姿はすでになく、空っぽになった水筒がその場にぽつんとあるだけだった。
「…はー、びっくりしたー…」
まさかこんな明るい場所で暗部と遭遇し、いびつな形の握り飯をご馳走してしまうとは…。
「…余程、お腹、空いてたんだな。あの暗部さん…」
暗部の「ごちそうさま」の言葉が何だか嬉しくて、いいことしたなと思いながら、イルカは空っぽになった水筒を回収すると、里に戻るべく、森から大門に続く道へと戻る。そのイルカの後姿をひっそりと狗面の暗部が見送っていたことに、イルカは気づいていなかった。
 
 
 
 
 
 報告書を出し終え、イルカはそのまま、帰途に着く。途中、近くの商店街で大根と茄子、脂ののった秋刀魚を一尾買った。
「今日の夕飯はさんま~、茄子の味噌汁~、茄子の焼きびたし~♪」
音程の外れた鼻歌を口ずさみながら、築四十年のオンボロアパートの錆びついた階段を登り、角部屋の一室を開ける。
 
 九尾の災厄から両親を失い、中忍になるまでの間、イルカは火影直轄の孤児院で暮らしてきた。下忍から中忍になり、何とか生計を自分で立てられるようになってからは、このアパートの一室に居を構え、ひとりで住んでいる。
 
 中忍の微々たる給料では贅沢は出来ず、懐の寂しさも相まって、イルカは拙いながらも自炊に励むようになった。自炊も最初は慣れず、失敗ばかりしていたが、今や、そこそこに食べられるものが作れるようになり、慣れれば料理をするのも楽しい。
 イルカは額当てを取り、ベストを脱ぐと夕食の準備に取り掛かる。任務に出る前、予め予約しておいた炊飯器のタイマーを見た。炊きあがりは二十分後だ。イルカは買ってきた秋刀魚に塩を振って、コンロに付属のグリルにセットする。二本の茄子は一本は縦半分に切り、格子状に包丁を入れて、油で炒める。しんなりと焼き目が付いたら取り出して、白だしと合わせた。もう一本は味噌汁に短冊に切って、出汁と味噌を溶いた小鍋に入れて、一煮立ち。
「薬味は大根おろしに限る。その前に秋刀魚を引っくり返さないとな」
グリルの程よく焼き目の着いた秋刀魚を引っくり返し、秋刀魚と焼きびたし用に大根をたっぷりと擦り、白だしにつけておいた茄子を皿に持って、大根おろしを盛り、冷凍しておいた小口切りに切った葱をたっぷりとかける。中々の出来栄えにへにゃりとイルカは口元を緩ませる。そうこうしてる内に、炊飯器が炊きあがりを知らせる。グリルを見やれば、秋刀魚も美味しそうに焼けている。イルカは小さな卓袱台に出来上がったばかりの料理を並べる。自分で言うのもなんだが、中々の出来だと思う。
 
「いただきます」
 
手を合わせる。秋刀魚に箸を入れようとしたところで、イルカはぴたりと箸を止めた。
「? …何だろう?何かいる?」
視線というか、妙な気配を感じる。部屋の中を見回すが、当たり前のように部屋の中は自分一人だけだ。気の所為かと、再び、箸を動かす。…突き刺すような、何というか、やっぱり気配がする。
「…外になんか、いるのかな?」
イルカは箸を置いて立ち上がると、、朝、開けるのを忘れてそのままだった、カーテンを開いた。
 
「…ヒッ!」
 
引いたカーテンの向こうに居たものに驚いて、その場にぺたりと腰を落とす。窓の向こう、昼間に森で会った狗面の暗部が逆さになって立っていた。
「わ、わ!!」
何で、どうして?!…イルカはパニック状態で後退る。暗部は逆さ状態から、とんと窓の柵に着地すると、窓に手を掛ける。掛けていたはずの鍵はいつの間にか解錠され、するりと部屋の中に暗部は入ってきた。礼儀正しいことに、サンダルは脱いで、裸足で。そしてずいっとイルカに布袋を差し出した。
「…な、なんですか?」
イルカは問うが暗部はただ袋をイルカに押しやるだけで、一言も発しない。無言の威圧に気圧され、イルカは袋を受け取る。恐る恐るその袋の口を開けば、いがの取れた栗と舞茸が沢山入っていた。
「わ、栗と舞茸だ。え、これ、俺に?」
恐慌状態になっていたことを忘れ、イルカは顔を上げて、暗部を見やる。暗部はこくりと首を縦に振った。
「わー、ありがとうございます。うれしいなー」
怖がっていたこともけろりと忘れ喜ぶイルカに暗部も心なしか嬉しそうだ。これは昼間の握り飯のお礼だろうか?心遣いが嬉しくて、イルカは暗部ににっこりと笑いかけた。何か、お礼をしなくては。
「暗部さんは夕ごはん、もう食べました?」
それに暗部は首を振る。
「良かったら、ご飯食べて行きませんか。おかず一品しかないので、半分こになっちゃいますけど」
イルカの言葉にコクコクと暗部の首が縦に振れる。イルカは暗部に座布団を勧めると、台所に立った。
 
 茄子の味噌汁に茄子の焼きびたし、白いご飯に秋刀魚が一尾。
 
 鉤爪の付いた肘まで覆う長い手甲を取って、暗部は座布団の上に大人しく座り、面を僅かにずり上げ、箸を運ぶ。
「暗部さん、箸使いきれいですね。秋刀魚、こんなにきれいに解体できるひと、初めて見ました」
一尾だけの秋刀魚は骨を挟んで、半分づつ、イルカの前に座る暗部が解体してしまった。両親が亡くなってから、三代目に躾けられてきたイルカも箸使いは巧い方だが、この暗部には負ける。細く白い指先が器用に箸を操り、身を解し、骨を外し、内臓をきれいに取り出すのに感嘆する。イルカの褒め言葉に箸を止めた暗部は僅かに覗かせた口元で照れたように笑んだ。それがあんまりにもきれいで、イルカは見とれてしまう。箸を止めてしまったイルカに暗部は困ったように首を僅かに傾ける。それにイルカは我に返り、羞恥を隠すように白飯をかき込んだ。
 
「ごちそうさまでした」
 
 ささやかな食事が終わり、イルカは食後のお茶を淹れる。湯のみがふたつ。
 誰かとこうやって食事をしたのは随分と久しぶりのことだった。
 
「暗部さん、栗と舞茸、ありがとうございます。明日、栗ご飯と舞茸の天ぷらを俺、作りますから、食べに来ませんか?」
食事が済んで、そわそわと何だか落ち着かずに、足をもぞもぞさせ始めた暗部にイルカは口を開く。その言葉に、暗部はピンと背筋を伸ばし固まって、それから、ゆっくりと言葉を発した。
「…いいの?」
「暗部さんが持ってきてくれたんですよ? 俺、ひとりじゃ食べきれないし」
イルカが言えば、暗部は暫しの逡巡の後、コクリと頷いて、「…あのね、」と口を開く。
「何ですか?」
「…てんぷら、ニガテ…です」
ぼそぼそと申し訳無さそうに暗部が言う。顔の解らない相手なのに、多分、自分と年は近そうなのに、幼さの残る言い方がなんか可愛いと思う。
「じゃあ、他の献立にしますね。他に嫌いなものがありますか?」
暗部はそれに首を振った。
「頑張って作りますから、絶対、来てくださいね!」
イルカの言葉に暗部がコクリと頷く。
 
 明日もこの暗部が一緒に夕飯を食べてくれる。
 
 それがとても特別なことに思えて、嬉しくて、来た時と同じように窓から、真っ暗になった外へと帰っていった狗面の暗部をニコニコ顔でイルカは見送った。
 

 
 

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