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「NARUTO」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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26 . June


  女とは一夜限りの付き合いが多かったので、こちらから連絡を絶てば、それで終わりになるような関係ばかりだった。思えば、イルカ程に深い関係になる女はおらず、女を血を見て猛った欲を吐き出すだけの道具のように思っていた。我ながら、自分はひどい男だと、カカシは思う。そんなひどい男の周りに居たのは、それでもいいと言う女達だけだ。…なら、と、深く考えることもなく、寄ってくる女を拒みもせずに抱いていたような気がする。だが、カカシが抱いたことで、女の中には欲求が生まれ、カカシを束縛しようとする。それがたまらなく嫌だった。自分から、迷惑はかけない、束縛しないと言い寄ってきたくせに、抱いた瞬間から、女はカカシが自分のものになったような顔をする。それが嫌で、後腐れのない商売女ばかりを相手にするようになっていた。女を愛しいと思うこともなく、また、カカシを心から愛してくれる女もいなかった。
 体の充足が得られればそれでいいと、父を仲間を、師を亡くしてから、心を凍らせ、カカシは荒み、歪んでいた。それを癒したのは、上忍師となり、部下となった下忍の子どもたちの存在だったように思う。そして、子どもたちの担任だったイルカの存在だった。無条件にあの九尾の子どもとうちはの鬼子が信頼を寄せ、懐く存在が気にならなかったと言えば嘘になる。興味本位にイルカに近づいて、言葉を交わし、酒や食事を共にするようになって、知れば知るほどに惹かれてやまなくなっていた。
 イルカは誰にも媚びない。間違っていると思えば、それが上忍であろうが、火影であろうが、意見する。自分が間違っていれば、その場でそれを認められる強さを持っていた。その真っ直ぐで、清廉な性根がカカシには眩しくて仕方がなかった。イルカの屈託なく浮かべられる笑みや、裏のない言葉は猜疑に満ちた世界で生きてきた心に、乾いた大地に落ちた雨粒のように溶けて、カカシの心を潤していった。イルカの傍は居心地がよく、いつの間にか離れがたく思うようになっていた。
 
 イルカが好きなのかもしれない。
 
 ひとを好きになったことのないカカシにとって、それは曖昧な感情だった。だから、イルカに「好きです」と、言われたのは、青天の霹靂で、驚いて声も出せなかった。ただ、嬉しくて、笑ったように思う。曖昧だった感情がその言葉を訊いた瞬間にカカシの中で形になった。
 
 イルカが好きだ。
 
 そう気づいてから、任務に明け暮れ、女を渡り歩くつまらなかった世界は一変した。イルカは束縛しない。常にカカシを尊重し、恩を着せるような、押し付けがましいことは何一つ、言わなかった。ただ、イルカはカカシにやさしかったし、何をしてもカカシを許した。イルカがカカシに望んだことはひとつだけだった。
 
「カカシさんが、「ただいま」って帰って来て、俺がそれを「お帰りなさい」って、出迎えて、あなたが安心して、家でくつろいでくれるのが一番嬉しいです」
 
食事の支度をしながら、イルカは笑って、カカシにそう言った。幸せだと思った。ずっと、自分が求めてきたものが、そこにはあった。だから、持ち込みたくなかった。
 
 血腥いものは。
 
 だって、ここにあるものは自分が描いてきたきれいできらきらとした壊れものような夢だ。その夢を汚すことなんて出来ない。本当は真っ赤に汚れた手で、触れていいものではないのだから。触れた途端に、それは壊れてしまうと思った。
 
 暗部の仕事を請け負い、ひとを殺した夜はイルカのもとへ行くことが出来なかった。きれいな、太陽の下で笑っているイルカを自分が汚してはいけないと思った。気がつけば、女を買っていた。それはイルカへの裏切りだと解っていても、猛ったものを吐き出す術を、それ以外にカカシは知らなかった。女を買って、抱いても、カカシの腕の中にいるのは、女ではなく、いつもイルカだった。求めるものはひとつだったのに、どこで間違えてしまったのだろう。
 
 ひとを殺してきた任務の帰り道、大門から程近い花街の入り口で、何度か閨を共にしたことのある女に捕まった。豊満な胸を腕に押し付け、誘う女の黒髪をカカシは気に入っていた。その黒髪に無意識に指を絡める。女の体が益々、カカシへと密着する。ふと、視線を感じて、カカシは顔を上げ、視線の先を探す。大門から入ってきた小隊が見えた。その小隊のひとりが、足を止め、カカシを見ていた。
 
 イルカ、だった。
 
 カカシを見つめる双眸は驚きに開かれ、それから何かを諦めたように、ふっと光を失くし昏くなった。その目が逸らされ、何事もなかったかのようにカカシから逸らされるのを、カカシは見ていた。
「…っ!」
名前を呼んで、追いかけたかった。なのに、絡まり付いた女の腕がそれを許さない。カカシは、女に促されるまま、花街の門を潜った。
 
 イルカはカカシを詰ることも責めることもなかった。不貞を詰られ、罵倒されていたなら、何かが変わっていたかもしれない。別れずに済んだかもしれない。…イルカをそう責めるのは筋違いだ。結局、先に裏切ったのは自分だ。嫉妬して欲しかっただなんて、厚かましいにも程がある。
 
 イルカに好きだと言われて、嬉しかった。
 血で真っ赤に汚れた手をとって、「あなたの手は守る手ですよ」と、言ってくれたひと。
 本当の俺を好きだと言ってくれたひと。
 
 なのに、どうして、触れることが怖いと思うのか。
 頬を伝う涙を拭うことも、抱きしめて慰めることすら出来ない。
 
 恋だと、愛だと、自分が思っていたものは、恋でも、愛でもなかった。
 イルカの言葉をどこか信じきれずにいた、ただのひとりよがりだった。
 
 イルカの存在が眩しくて、目が痛くて、それを苦痛に思った。
 暗がりに、俺は長く居すぎたから、イルカが眩しくて、傷つけたくて、同じ場所まで落ちてきて欲しかった。
 そんな俺を、イルカは明るい場所へ引き上げようとしていたのに。
 
 
 満たされない想いだけが募っていくそれを、何と呼べばいいのか解らない。
 ただ解ることは、「別れても、好きなひと」…それだけだった。


 
 今度は、俺から…。
 「好きだ」と、言う。イルカが信じてくれるまで、何度も何度でも。
 
 
 カカシは古びたアパートの階段を昇った。
 
 
 
□□□

短めですが、キリがいいので。
次で終わる予定。

 

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