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「NARUTO」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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05 . July
 
 
 
 イルカ先生のどこを好きになったかと言えば、最初は屈託のない笑顔だ。
 
 何となく惹かれていって、急速に仲良くなって、時間が合えば一緒に食事をしたり、酒を呑むようになった。
 先生と俺とは歳はひとつしか違わない。歳は俺が一個上だ。
 上忍、中忍と階級差はあるけれど、俺があんまり気しないからか、イルカ先生も割りと気さくな感じで「どうですか?」と言えば、余程のことがない限りは「いいですね」と笑って、誘いに乗ってくれる。
 でも、親しき仲にも礼儀ありで、先生の敬語は滅多なことでは崩れない。こちらを尊重してくれる態度はとても好感が持てた。
 イルカ先生との会話は最初は俺が面倒見ることになった子どもたちの話ばかりだったけれど、同年代だし、今は話の幅も広がって、どこそこの店の定食が安くて美味いとか、お互い顔見知りの上忍の噂話だとか、ちょっとプライベートな話だとかするようになっていた。
 
 俺と先生の今の関係は、普通の飲み友達だ。
 
 イルカ先生は、料理なんてしたことがなかった俺が料理本と睨めっこして作った料理とつまみがお気に召したようで、喜んでたくさん食べてくれて、皿の料理は殆ど空になっていた。貰い物の秘蔵の銘酒もそろそろ空になりそうだ。いつもは量をセーブする先生が明らかに酔った目をしている。人目も気にしなくていい、俺の部屋での宅飲みだからだろう。いつもは先生の家で飲むことが多いけれど、気を使わせてばかりなので、初めて、俺の部屋にイルカ先生を招いた。俺の部屋に入って、先生は暫くは緊張して落ち着きなく、きょろきょろしていた。それがすっかり、自分の部屋のように寛いでた。
 
「カカシさん、けっこー、遊んでるって聞きましたよ。百人斬りしたって!」
 
酔いも回って、イルカ先生の敬語は相変わらずだが、話の内容は砕けてきた。それが、俺に心を許しているようで嬉しい。猪口に残った酒を舐めて空ければ、すかさず慣れた手つきで、酒瓶が傾いて、酒が注がれた。
「…さあ、どーでしょうネ?」
巷ではそんな噂が流布しているらしいが、ヤりたい盛りは短く過ぎて、体力を消耗するだけのセックスをするぐらいなら寝てたいと思う。抱きたい言うより、突っ込みたいと思う時は血を見て、大抵、気が立ってるときだし、下手したら抱き殺すことになりかねないので、シャワーを浴びるついでに右手で処理して終わることが多い。淡泊な性分故か、二十歳を幾つかすぎてからは性欲も薄くなった。実は片手で足りる程度にしか、女を知らない。何せ、戦場から戦場へ、次の任務から任務へと渡り歩く生活に、女の体に溺れる暇も余裕もなかった。そう言えば、イルカ先生はどんな顔を見せてくれるのか一抹の興味はあるが、嘘だと思われそうだ。
「そーやって、誤魔化すぅ」
拗ねた口調でそう言って、イルカ先生はくいっと猪口を煽った。
「そー言う、イルカ先生はどーなの?」
イルカ先生は本人が知らないだけで、上忍のくノ一達に結婚相手として人気が高いらしい。同僚の紅が言っていた。何でも、内勤で、子ども好きで、育児も家事もそつなくやってくれそうなところがいいとか。他の内勤の中忍連中より、イルカ先生のポイントが高いのは、三代目のお気に入りであることらしい。将来は上層部入りするのではないかとまことしやかに囁かれているが、本人は意識はおろか、そんなこと考えたこともなさそうだ。端から見てると、三代目とイルカ先生の関係は頑固爺と世話焼きの孫だ。
「おれなんか、モテないですよぅ!いつもイイひとで終わっちゃうし。あー、可愛くて、巨乳で料理上手な嫁さんがほしー」
イルカ先生は溜息を吐き、俺を見やった。
「カカシさんは結婚しないないんですか?…上、うるさいでしょ」
「…あー、ウルサいですけど、結婚に夢も希望もないしねぇ。穏便に断ってますよ」
「もったいな!上層部が薦めてくるのって美人ばっかでしょ。ってか、結婚に夢も希望もないって、寂しいじゃないスか。…ってか、カカシさん、好きなひととかいないんですか?好みは?」
好奇心に目をキラキラさせて、イルカ先生は身を乗り出してきた。
「いますよー。みんなから好かれてて、料理上手で、笑顔が可愛くて、黒髪で、鼻の上に一文字の傷がチャームポイントなひとですね」
「みょーに具体的ですねー。鼻の上に傷って、俺みたい」
アハハと笑って、イルカ先生は鼻の頭の一文字を掻いた。…イルカ先生のことなんですけどね。そう思うが、まだ具体的なことに踏み込む勇気がない。相手に隙を与える暇なく、間合いを詰めて、首、掻っ切るのは、俺、得意なのにねぇ。狙ってくれと言わんばかりに隙だらけのこのひと相手には間合いも取れないばかりか、手も出せない、踏み出せないって、本気すぎて、悶々とする恋する乙女みたい。
 手は血塗れ、汚いものばかりを見続けて、酸いも甘いも二十代になる前に知り尽くし、荒んだ青春送ってきた俺が三十路間近で初恋。相手は一つ年下の中忍のアカデミーの先生兼笑顔の素敵な受付嬢って、笑えるよねー。笑っちゃう。
 ひとを殺すことばかりで、誰かを愛しいとか、触りたいとか、俺が実際にそう思うことはないんだろうと思ってた。イチャバラみたいな楽しい、夢みたいな恋をしたいと妄想を思い描いて、それで満足していたのに、満足出来なくなっている。目の前のひとが喉から手が出るほどに欲しいと飢えてる。
(…好き…って、言えたら…)
いいのに。でも言ってしまって、心地の良いこの関係が壊れてしまうことが何よりも怖い。

 だから、俺はイルカ先生との間に、俺しか見えない線を引いてる。

 その線から俺は踏み出せない。届かない手を精一杯伸ばすだけ。その手を、目の前の先生が掴んでくれることなど、ないと解っていながら。もし、掴まれたら…、きっと俺は変わってしまう。そんな恐怖を俺に植えつけたひとは顔を赤らめ、笑っている。
 
「カカシさん、カカシさんは実は俺のこと好きでしょう?」
 
酔っぱらいがにっこり、ひどいことを言って、笑う。
「好きですよー。ちゅーしたいくらい」
それに俺はへらりと本音を織り交ぜて、冗談交じりに笑う。笑っていなければ、先生に無体なことを働いてしまいそうだ。
「…ハハ、カカシさん、俺とちゅうしたいなんて、変わってますねぇ。そういうのは美人に頼まないとー」
「俺、せんせーがいい。だって、美人は口紅がべったりだもの」
ちょっと荒れて、薄皮の剥けたぽってりとした血色のよさそうな唇が美味しそうに見える。あの唇に吸い付きたい。許されるなら熱い舌を舐めて噛んで、溜まった唾液を啜ってしまいたい。
「…ちゅう、します?酒臭くて、イカの煮付けの味するし、きっと幻滅すると思いますけど」
とろんと酔っ払った眼差しを先生は俺に向ける。俺は手にしていた猪口を落として、イルカ先生に身を乗り出した。
「あ、もったいね」
猪口を満たしていた酒がラグに染みていく。それを、見やり、イルカ先生は拭くものを探し始める。それを無視して、俺はイルカ先生の腕を掴んだ。
「…いいの?」
声が掠れる。イルカ先生はちょっとだけ目を見開いて、俺を見た。
「…カカシさんがイヤじゃなかったら」
イヤなハズがない。こんな据え膳、あっていいのか?夢なら覚めないでと願いながら、イルカ先生の頬に手のひらを添える。それに、先生は目を閉じた。それに心臓が壊れそうなくらい、大きな音を立てている。
 
「…イ、るか、せんせ…」
 
 この自分で引いた一線を越えてしまったら、どうなるのだろう。
 ああ、怖いよ。怖い。死ぬことよりも、怖い。
 だって、せんせいで俺の中、いっぱいになって、何も考えられなくなる…。
 
 触れることに躊躇って、寸前で怯えた俺に、目を開いた先生が赤い顔で「意気地なし」と詰って、俺の頬を両手で包んだ。
 
「カカシさん、ちゅうしたいくらい俺のこと好きなんでしょう?」
 
イルカ先生が笑う。俺はそれに「はい」と頷くことしか出来ない。線を越えて、伸びてきた手が今、俺を掴んで離さない。
 
「俺も、カカシさんが好きです。ちゅーしたいくらい」
 
 触れた柔らかな感触に眩暈がする。
 初めて、触れた唇は柔らかく、酒とイカの煮付けの味がする。それでも夢中で、望むがままに差し出された唇を貪った。
 
「…っは、」
「セん、セ…」
 
先生の唇が濡れている。端から伝う唾液を指で拭おうとするも、おかしなくらいに手が震えて、上手く拭えない。
「…はは、何か、俺、手が上手く動かないです」
「俺、ホントにカカシさんとキスしちゃって、心臓が壊れそうです」
赤くなった顔はお互い、酔いのせいじゃないことは確かで。恥ずかしくて、ふたりで笑って誤魔化す。目が合えば、自然に照れ笑いが浮かぶ。俺はイルカ先生の唇に触れる。
(…バカだね、俺。イルカ先生は線なんて、引いてなかった。俺がただ、臆病になって、勝手に線を引いてただけだった…)
「…イルカ先生、俺、あなたが好きです」
壊れてしまうものなんか、はじめからなかった。ただ、ここから、始まる。一線を越えても、終わりはない。終わらせたくない。
「俺も、カカシさんが好きです」
にっこりとイルカ先生が笑う。
 
「もう一度、キスをしてもいいですか?」
 
触れた頬は熱く、潤んだ黒い瞳が了解だと、閉じられた。
 
 
 
 
 

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