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「NARUTO」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。
20 . May
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12 . May


 子どもみたいなひとだなぁ。

 イルカは目の前の男を見やり、溜息を吐く。そんなイルカの心中を知るでもなく、アカデミーの子ども達と変わらぬ無邪気さを持って、カカシはニコニコと笑っている。唯一、露出した右目が雄弁に上機嫌を語る。握られた両手をどうしたものかと考えて、ここが自室で良かったなと思う。アカデミー内なら、羞恥に我を忘れ、人目も憚らずにこの男が上忍だと言うことも無視して、張った押しているところだ
 いつも、窓から風のように現れ、家に持ち帰った仕事をこの男は邪魔をする。明日、子どもたちに返すテストの採点をしていたのだが、カカシに両手を握られ、筆を持てずにストップしてしまった。辛うじて、筆を硯の上に戻してくれたことには感謝して、卓袱台の上、バランスよく爪先立ちでしゃがみ込み、自分をキラキラした目で見つめているカカシをイルカは見つめ返す。土足なら今頃、張っ倒しているところだが、前に一度、カカシがやらかした時に張っ倒したことがあった所為か、学習して裸足だ。それでも、食事をする場所でもあるその上に足を乗せるとは何事だと思ったが、相手は二週間の里外Aランクの任務帰りで、疲れて常識を忘れてきた上忍様なのだと我慢し、言葉を飲み込む。カカシの今回の任務は然程、危険なものではなかったのか、衣服に汚れは見られるものの、外傷は見当たらない。それに胸を撫で下ろし、二週間の不在の心配と寂しさをさっさと忘却し、自分に比べ生白い足だなと露出したカカシの趾先をイルカは興味を持って眺める。

「…カカシさんって、色白ですよね」

べらべらと並べ立てられる味噌汁の上澄みのような、何処かで訊いたことのある、会えなくて如何に寂しかったかを語るカカシの言葉をまるっと無視して、イルカは呟く。それにぴたりとカカシは垂れ流していた言葉を止めた。
「女性が羨みそうですよね。美白流行りだし」
趾先の爪が潰れていなければ、きれいな足先だと思う。シミひとつない。こんな女のような脚をして、脛毛が生えてるんだろうかと疑問に思う。ズボンの裾を捲って見たかったが脚絆が邪魔だ。握られたカカシの手が緩んだのをいいことに、自分の手を引っこ抜いて、カカシの足先に触れる。それに「ひゃあ!」とカカシは声を上げ、卓袱台の上を転がり落ちた。それを呆気に取られたようにイルカは見やった。

 上忍様が、写輪眼のカカシが油断して卓袱台から落ちるとか、笑えるんですけど!

 笑ってやろうかと思ったが、落ちたカカシは引っ繰り返ったまま、擦り切れた畳の上、顔を覆い、伏せてしまった。銀色の髪から僅かに覗く耳が赤い。みっともなく卓袱台から落ちたのが、余程、恥ずかしかったのかと思い、イルカは笑いを堪えて、身を乗り出し、カカシの顔を覗きこんだ。
「カカシさん?」
「イルカ先生、酷い。いきなり、触るなんて!」
もごもごと口を布が被っている所為か不明瞭で聞き取りづらいが、非難する言葉が返ってくる。イルカは顔を覆ったカカシの手首を掴み、引き剥がし、顔の半分を覆う口布をついでに引き下げる。ちゃらちゃらした言動とは裏腹に恐ろしく整った顔をしたカカシが頬を赤くし、目を潤ませ、イルカを睨んだ。その顔に、イルカはちょっとくらりと雄としての本能を刺激されるが、お綺麗な顔はしてても、カカシだ。どうこうしてやろうという気持ちは、すぐに萎えた。
「ちょっと触っただけでしょ。何、アンタ、生娘みたいな反応してるんですか?」
このカカシの馬鹿みたいな初心さ加減にイラッとする。年端のいかぬうちに上忍になり、暗部にも所属していたこの男は口説き文句だけは本で知識を付けたらしく立派なのだが、直裁的な行動に出られると、忍のくせに派手に焦り、狼狽える。…誰だよ、このひとが夜も百戦錬磨の業師、女泣かせの色男なんて噂を流した奴は…。本人と噂がまったくもって掛け離れ過ぎている。カカシも最初のうちこそ、格好つけたいのか、余裕を見せた色男ぶって、取り繕って見せたものの、イルカから触れる度にこの反応では、ボロボロ過ぎて繕うものも繕えなかった。ちょっと突いたくらいで、この反応だ。キスなぞした日にはどんな反応を返してくれるやら。…箱入り娘だって、今時、こんなに狼狽えたりはしないだろう。恋愛経験の乏しい自分にすら、カカシは負けているとイルカは思う。
「…き、生娘って…」
カカシはイルカの心ない言葉に傷ついたと言う顔をする。イルカはこんなんで、良くクセモノな上忍やってこれたなと半ば感心しながら、カカシを見下ろした。
「アンタが触るなって言うなら、触りませんけど、そう言うなら、カカシさんもオレに触らないで下さいね」
対面倒くさい上忍用癒されると評判なスマイル0円な完璧な愛想笑いを返し、イルカは体を起こした。
「ううっ、イルカ先生、ひどい~」
と、カカシのメソメソと嘘泣きのような縋る泣き言が聴こえた気がしたが、それは無視して、イルカは台所に立った。
「カカシさん、メシ、食いました?」
「まだです! 腹減りました。イルカ先生」
ぐうっと腹を鳴らして、カカシが言う。視線を返せば、いつもの飄々とした顔に戻ったカカシが畳の上を転げた。
(…立ち直りの早い人だな)
呆れればいいのか、感心すればいいのか…。上忍とはこんなものなのかと、イルカは何度目になるか解らない溜息を吐いた。
「…残り物でいいですか? 帰りが早ければ、秋刀魚焼いたんですけど、アンタ、遅いから…」
「秋刀魚は明日、焼いてくれたら嬉しいです」
「じゃあ、オレ、明日は六時で仕事上がりますから。…アンタは時間は?」
「俺は報告書出したら終わりなんで、体が空きますよ」
「じゃあ、明日は秋刀魚と…。報告書出したら、暇でしょ、八百屋で味噌汁の具でも買って来といてくれます?」
「俺、茄子の味噌汁が食べたいなー。茄子でいいですか?」
「ハイハイ、茄子でいいですよ。…カカシさん、卓袱台、片付けてくれます?」
恋人と言うにはまだまだで、かと言って、友人という関係とは何か違う。ひとつ年上の、子どもっぽい、いい雰囲気になると怖くなって自分でぶち壊しておいて、後悔して泣きそうになる面倒くさい、言葉にした好物に直ぐに機嫌が良くなる男を可愛いと思ってしまうあたり自分も末期だなと、イルカは思った。

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