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冬音 「NARUTO」の二次創作を扱う非公式ファンサイト。

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目は口ほどに物をいい。



 口腔に溜まった唾液を無意識に嚥下して、イルカはごろりと寝転がりいかがわしい愛読書のページを捲っているカカシの顔をこっそりと見やる。普段、その顔は必要以上に隠され、右目のみが露出しているのだが、今、その顔は惜しげも無く晒されている。
(…きれーな顔…)
その素顔を知るものは一体、何人いるのか。…恋人というものになってから、随分経つが、まあ、何というか、気安い友人と言う居心地の良さから、お互い抜け出せず、キスはおろか、手を繋ぐことすらないまま、半同棲状態。なのに、布団はひとつと言う、矛盾。そろそろ、もういいんじゃない?…と、一歩踏み出し、カカシが読んでいる本の中のいかがわしいことをしてみたいような気もするが、自分から言い出すのは恥ずかしい。内からジリジリ焦れるような欲が炙られる。イルカとて、いい年をした歴とした成人男子である。性欲がない訳ではない。カカシだって、そうだろう。
(…このひとに性欲なんて、あるのかねぇ。…いかがわしい本ばっか読んでるからあるんだろうけど、男の体にはやっぱ興味がねぇのかもなぁ)
…と、思いつつも、半年前の出来事がイルカの脳裏を過る。

 一年前、教え子を通じて、雲の上の上忍のカカシと顔見知りになった。初めは事務的だったものが、カカシから酒に誘われて、トントン拍子に親しくなって、気さくな口を利くようになるのに時間はそう掛からなかった。そして、知り合って、半年が過ぎた頃、カカシに飲みに行かないかと誘われ、一つ返事で頷いて、付いて行った小料理屋の座敷。いつもはゆっくりと銚子一本を空けるカカシのピッチはその日は早く、気がつけば、三本目が空いていて、二本目の銚子に手を付けたイルカは「カカシさん、今日はピッチ早いなぁ」などと思いながら、運ばれてきた脂の乗った鰤の刺し身に箸を付けた。思えば、カカシは酷く、緊張していた気がする。
 他愛のない話を交わしながら、時間は過ぎて、イルカの頬も酔いが程よく回って、染まる。四本目の銚子を空けたカカシが息を吐いて、徐にイルカへと視線を向ける。露出した右目の縁がほんのりと赤く染まって、妙に色っぽかった。
「…イルカ先生、」
「はい。何でしょう?」
猪口を空けて、顔を上げる。カカシの瞳孔が珍しく大きく開いている。目は口ほどに…と言うから、意識して忍は感情を表に出さないように縮瞳している。瞳孔は光の少ない場所で散瞳するが、交感神経の作用によっても散瞳する。散瞳するのは、概ね気が高ぶっているとき、興奮状態にあるときだ。カカシの声が僅かに上擦ったのに、イルカは気づいたが、気づかなかったことにして、カカシを和ませるように笑んだ。
「…好き、です」
そのイルカの笑みに意を決した様に言葉をカカシは発した。語尾は殆ど掠れてしまって聞き取れない。カカシは言うだけ言って、俯いてしまった。その言葉をどうにか拾って、イルカは深く考えることもなく、言葉を返した。
「俺も好きですよ」
それに、カカシは居心地悪げに顔を上げ、身じろいだ。
「…俺の好きは、性的な意味も含めて、なんです」
口布越しの言葉はいつもは明瞭なのに、何だか今は訊きとり辛い。イルカはどうにか言葉を拾って、咀嚼すると飲み込んだ。
「…えーっと、それは俺とキスしたいとか、セックスしたいとか、そう言う意味ですよね?」
「そうです」
カカシから、短く返される。
(…あー、どうしようか…?)
忍の世界にも当たり前のように、衆道がある。女色よりも男色を好む者はいるし、前線にいれば、男ばかりなのだから、そういうこともある。同僚には上忍から伽を命じられた者もいる。前線にイルカも二年ほど居たが、幸いなことにご指名は受けなかった。こういう世界の末端に身を置いているので、イルカに偏見はない。…でも、ここは平穏な里内だ。カカシが女に困るようには見えない。寧ろ、引く手あまただろう。名声も地位も有り、露出した右目だけ見ても、カカシの容姿が優れているだろうことが解る、そんな男が、自分でも言うのも切なくなるが、冴えないけれど、物怖じしない、明るい真面目さだけが取り柄の男に欲情するとはとてもじゃないが思えない。上忍から指名を受けていた同僚は容色整い、どこか女性めいた線の細さを残していた。イルカは細くはないし、骨太で、おまけに顔は傷物だ。カカシにも左目を縦に走る傷があるがそれはカカシの容色を損なうどころか、際立たせている。…色々と考えてみるが、自分の何処に性的な欲望を見出さえるのか解らない。
「…男、ですけど」
念の為にと言ってみれば、「イルカ先生は女には見えません」と返された。カカシは解って、言っている。イルカから拒否される可能性も、今までの関係も壊れてしまうことを解って、「好き」だと、言った。だから、カカシは緊張している。…それが、イルカには可笑しくも嬉しい。

 あの、写輪眼のカカシが、俺を好きだなんて…。

 笑えばいいのか、嫌がればいいのか、喜べばいいのか…、迷って、イルカは手酌て銚子の酒を猪口へと注いで飲み干すと、居住まいを正して、カカシに向き直った。

 カカシのことは好きだ。尊敬できる忍だし、話も合うし、一緒に居て、言葉がなくても苦にならない。そんな存在を簡単に失ってしまうには惜しいし、もっと、カカシのことを知りたいとも思う。

「…ふつつか者ですが、よろしくお願いします」

畳の上に三つ指とは行かないが、膝に拳を置いて頭を下げれば、驚いたようにカカシが目を見開いた。玉砕覚悟の上だったのかと解って、イルカは何だか余計に嬉しくなった。
「…あの、イルカ先生、本当に?」
「前言は撤回しませんよ。俺もカカシさん、好きだし」
「…後悔しても、知りませんよ?」
「しない後悔よりは、する後悔ですよ」
嫌悪はないし、好意はあるのだから、付き合っても損はないだろう。素のカカシに単純に興味がある。ニコニコ笑ってそう言えば、カカシは肩を竦めた。
「…アナタ、ホント、潔すぎ…」
その言葉と同時に引き下ろされた口布。困ったように笑んだカカシの唇が想像してたよりもきれいで、イルカは狼狽えた。




(性的なって言ったけど、一緒に暮らして、俺のがさつぷりに性欲も吹っ飛んだのかもな)
公私の公の仕事が人間関係の複雑さもあって手抜きが出来ない反面、私の方は一人暮らしの気楽さもあってか、大雑把だ。余り、物は置かないようにしているが、カカシと恋人同士という関係になってから、色々と物が増え、ひとも一人増えた。洗い物と洗濯とゴミ出しだけは溜めないようにコマメにやっているが、部屋はいつも雑然としている。
(…やっぱ、女がいいのかなぁ。まあ、女のひとのほうが料理も美味いだろうし、部屋もきちんとしてるだろうしな。…まあ、そうだよなぁ…)
好んで、骨と皮と筋肉だけの硬い体など、抱きたくはないだろう。イルカだって、嫌だ。だから、そう言う雰囲気にならないのだろう。
(うーん。でも、俺が嫌になったのなら、一緒にはいないよなぁ?)
いつの間にか、持ち帰ってきたテストの点を付けるイルカの手は止まっている。それに気付いて、カカシは視線を上げる。…イルカの仕事が終わったのかと思ったが、そうではないらしい。何か、考え事をしているのか、イルカの眉間には皺が寄っている。その眉間の皺が不意に緩むと同時に、イルカの黒い目と視線が重なった。
「…仕事、終わりました?」
終わってないのは一目瞭然だったが、カカシは訊ねる。それに、イルカは首を振った。
「…何か、カカシさんのことを考えてたら、手が付かなくなっちゃって…」
それに、カカシの目が驚いたように見開かれるのを、イルカは興味を持って眺める。それと同時に視界が不意に動いて、天井が見え、カカシの顔が真正面になる。何が起きたのか解らず、イルカは瞬いた。
「…スゴイ、殺し文句…。俺のコトって、どんな?」
あの夜と同じで、カカシの瞳孔が散瞳している。イルカはごくりと唾を飲み込んだ。
「…知ったら、カカシさん、絶対、引きますよ?」
「引いたりなんかしないよ。ねェ、教えて?」
聴いたことのない甘さを含んだ声が、真上から降ってくる。その声が脳髄を駆け上がり、交感神経を刺激する。落ちる視線は何かを期待したように、瞳孔が開かれたままになっている。
(…っわ、何か、凄い、は、恥ずかしくなってきた…ッ…)
かーっと頬が熱くなっていくのを感じる。カカシの欲情したような顔は目に毒過ぎる。イルカはぎゅっと目を瞑った。
「…ねェ、教えてよ?」
どこから、そんな甘い声を出しているんだこのひとは?強請るような甘えるような響きが耳に悪すぎる。…イルカは逃げようと身を捩るが、カカシの腕に阻まれ、逃げることも出来ない。…と言うか、待ち望んだ展開になって来ている。どこで、カカシのスイッチを押してしまったのかは解らないが…。
「…カカシさんは、性的な意味も含めて、俺が好きだって言ったけれど、…全然、そう言う雰囲気にならないのは、どうしてかなぁと…」
引くなら、引け!但し、理由は説明して頂く。…イルカは開き直る。…四捨五入したら三十路の男が、今更、ちょっと押し倒されたからって恥ずかしがってられるか!!
「…それはですね、イルカ先生がそう言う雰囲気になると、自分で壊しちゃうからですヨ。…無意識みたいだから、俺も強引には行けなくてですね」
「へ?」
カカシの言葉にイルカは目を開く。
「フラグクラッシャーですよね、イルカ先生は。…まあ、アナタのそういうトコは、恋敵避けになって助かってますケドね」
不意に落ちて、重なった唇。ぬるりとカカシの赤い舌がイルカの唇を舐めて、離れていく。その舌がぺろりと形の良い唇を舐めた。
「キスしても、イイ?」
「…今、したじゃないですか…」
悪戯を思いつい付いた子どものような顔で、カカシが訊いてくる。それにイルカは眉を寄せた。
「うん、したね。…じゃあ、触ってもイイ?」
カカシの声と顔には余裕があるのに、遠慮がちに頬に触れる指先や、散瞳した目が緊張に微かに慄えるのが何だか、嬉しい。イルカはカカシを見上げ、目を細める。
「…いいですけど、触ったら、もう後には引けないですよ。後悔しないでくださいね?」
「する訳ないヨ。…ずっと、俺、我慢、してたんだから…」
拗ねたような言葉と一緒に、後頭部にそろりと回された指がイルカの結わえていた髪を器用に解く。畳の上に黒髪が波打って、広がる。それを嬉しそうにカカシは見やり、笑った。
「そうですか。…では、お好きなように」
勿体つけるほど大層な体でもなし、今更、恥じらうのも何か違う気がする。自分に覆いかぶさった男が欲情した目をしている。拒む理由もない。

「アナタ、ホント、潔すぎ…」

あの夜もカカシから訊いた台詞にイルカは笑うと、カカシの首に腕を絡ませ、奪うように口付けた。


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